特殊な趣味サイトを訪れる人々は何人いるのか? 見積手法と実例

朝食会場の風景

私の理解では、世間の人々はなかなかに懐が深く、どんなに変わった趣味でも共感される得る。事実、当サイトは、「数あるサラブレッドの血統の中でも絶滅寸前の零細血統を追う」という奇抜なコンセプトだが、新しい記事を書けばすぐに見に来てくださる方がいる。残念ながら読者がどこのどなたかを知ることはできないが、自分が書いた記事が何回読まれたか?という情報は簡単に得られるので、「誰かが記事を読んだ」=「読者がいる!」という事実は分かり、大いに励みになる。

ところで、元来趣味サイトを作る行為に理由はいらないのだが、作るからには何か得るものがある方がより幸福度が高まる。読者にとっても、作者にとってもそうだ。私は、「自分が調べて書き上げたものが誰かに読まれる」こと自体が好きなのでそれだけでも良いのだが、「趣味でサイトを作って、ついでに利益が上がったらいいな」と考えたとしても罰はあたるまいし、ごく自然な発想だと思う。

ただし、もしあなたも同じように考えて趣味サイトの開設に興味を持ったとしたら、少なくともこの点は意識すべきだ。すなわち、その趣味サイトの潜在的な読者数はどのくらいいるのか?

そりゃそうだろう。収益化のテクニックの紹介は別の機会に譲るが、少なくとも、頑張って作ったサイトの訪問者がほぼゼロだったらどうにもならないことは明白だ。良い機会なので、当サイトを今後も鋭意拡充し、絶滅寸前のヘロド系の情報をてんこ盛りにして共通の趣味を持つ読者の皆様にPR、さらには商売のテクニックも鬱陶しいほど散りばめたら果たして儲かるのか考えてみよう。

とにかく難関は、こういう特殊なサイトを訪問する可能性のある顧客(読者)が最大どの程度いるかをいかに見積るかだ。当たり前だが、「絶滅寸前のヘロド系に興味がある人口」という統計データはどんな酔狂な会社も公開していないので、ここは想像力を働かせるしかない。

たとえば、競馬ファンの人口を参考にするのはどうだろうか? 日本中央競馬会(JRA)の公開資料によれば、最近25年間の総参加人員はほぼ1億6,000万人~1億8,000万人の間で推移している [1]。これは馬券を買った人の累計とみるべきなので、毎回のように競馬場に通い詰める熱心な支持者から、友達に誘われて初めて来たというライトな層まで幅広い人々が含まれるのだから、実際の競馬ファンは多くても数百万人だろう。とはいえ、この数字から「ヘロド系のファン数」を推定するのは至難の業だ。

熱心な競馬ファンの中には、競走馬の血統に注目する人たちも確かにいる。ただし、それはあくまでレースの勝ち負けを予想することが主目的だ。「サンデーサイレンス/Sunday Silenceを祖先に持つ馬は瞬発力があるから今日のレースは得意だ」とか、「ミスタープロスペクター/Mr. Prospectorの子孫は早熟な馬が多いから、ここは勝負になりそうだ」とかいったように考える。したがって、わが国の競馬界からほとんど退場してしまったヘロド系が顧みられることはほとんどなく、この方面を深堀りしても説得力のある数字を得ることは難しいだろう。それに、いわゆる競馬ファンにはインターネットには縁のない方々も相当数含まれてしまうので、これらをうまく選り分けることも苦労するはずだ。

さらに言わせてもらえば、当サイトは賭け事としての競馬とは何ら関係がない。レースの予想もしないし、投資法を考えたりもしない。ただひたすら、英国発祥のサラブレッドの血統に注目し、その中でも絶滅危惧種の血統を追いかけることを命題にしている。

ならば、このサイトの潜在顧客数の見積りにふさわしい手法とは何だろうか? 私が考えつく良質な指標はゲームであり、これを利用する方法である。(注:聡明な皆様にはお分かりいただけると思うが、念のために補足すると、ゲームを参考にすることが常に正しいわけではない。見込み客数の見積りのためには何か妥当な指標を参照すべきで、今回の場合はたまたまゲームが好都合だというだけである。)

さて、コーエー社のWinning Postシリーズは、プレイヤー自らが考えた配合でサラブレッドを生産。育成は調教師に、レースは騎手に任せ、自身は馬主として所有馬の管理しつつ、世界の大レースの制覇を目指す。そして、大レースを制した優駿を種牡馬や繁殖牝馬として自分の牧場に迎え入れ、今度はその子孫たちでさらなる栄冠を掴みに行くゲームである。このシリーズは、1993年の処女作以来進化を続け、海外にも自分の牧場を持てるようになったり、一口馬主を募集するクラブを設立したりできるようになっている。ちなみに、私は1997年に発売のWinning Post 3のシステムこそシンプルかつ最高だと信じているので、いつか機会があれば紹介させていただきたい。

なお、Winning Postシリーズを選んだ理由だが、このゲームで強い馬を生産するヒントは配合理論にある。そして、この配合理論に密接に関わるのがサラブレッドの血統なのだ。したがって、このゲームのプレイヤーは基本的に様々な血統の種牡馬と牝馬を組み合わせて最強馬の生産を目指すという行為が好きだし、自分がひいきにしている種牡馬やその一族の勢力を拡大することに喜びを感じる。血統ファンの数を推定するにはまさに好材料だろう。

今から7年前に発売されたWinning Post 8を例にすれば、プレイステーション4、Vita、3を合わせた販売本数が22,423本 [2]。Windows版もあるのだが、これはデータがないので1万本程度と仮定する。すると、大雑把に言ってこのゲームには3万人のプレイヤーがいるはずだ。ではこの中で、現代競馬の主役となるサンデーサイレンスやミスタープロスペクター、サドラーズウェルズ/Sadler’s Wellsなどから大きく外れる零細血統(ヘロド系)に興味を持ち、それが絶滅の瀬戸際にいることに驚き、あえて調べようとする人の数といえばどの程度だろうか?

最後は強引に決めるしかないが、こんな特殊な層は全体の1%。つまり300人程度と見てもあながち間違いではあるまい。

繰り返すが300人だ。なんと貴重な数字だろうか。貴重すぎて涙が出る。1億2,000万人以上の人々が暮らすわが国の中で、同じ趣味を持つ方が300人。その人たちを相手に何か商売になりそうなアクションを起こしたとして――。

いや、ダメだ。儲からない。

ここは頑張るところではないのではっきり言うが、この人数が見込み顧客である限り地道にやっても収益化は望めない。しかし、それが分かっていてサイトを運営する分には問題ないので、ここは身をもって、ダメな例としてこのテーマの選択を挙げさせていただこう。

みじめな結論だが、ここから学ぶことがあれば無駄ではない。実際に、あなたが新たに立ち上げる趣味サイトを訪れる可能性のある顧客数を見積もる手法を一つ、こうして確認することができたのだから。

もしあなたが趣味サイトを作り、何らか収益になる未来を考えたいのであれば、テーマの選定には十分に気を遣っていただきたい。将来ファンとして獲得できる可能性のある潜在的な訪問者が十分にいる!と確信できるテーマでスタートする方が、より成功に近づくだろう。

では今回はこの辺りで。私は、私の貴重な読者の皆様の知的好奇心をさらに満足するために、今日も絶滅危惧種のヘロド系の子孫たちの痕跡を探しに出かけようと思う。

私たちがいる限り、ヘロド系は終わらない。
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