名著探訪「愛馬物語:クラリオンと歩む北の大地」

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基本情報

  • 著者:市来 宏
  • 出版年:2008年1月10日 第1刷発行
  • 発行所:株式会社幻冬舎
  • 言語:日本語

概要

ヘロド系のファンならば本のタイトルにハッとするが、本書に登場する「クラリオン」は、ヘロド系後期最大の名馬トウルビヨン/Tourbillon(1928年)の孫のクラリオン/Clarion(1944年)ではない。現役時代の馬名はグリーンパンサー/Green Pantherで、レイズアネイティヴ/Raise a Nativeを祖父に持つエクリプス系の子孫である。グリーンパンサーとしての本馬は名門社台ファームにおいて1979年に誕生したが、競走成績は34戦2勝。結果だけを見れば、新馬戦(初戦)に勝利した瞬間がキャリアのハイライトとも言える平凡な競走馬だった。

グリーンパンサー 1979年(日)
34戦2勝
レイズアボーイレイズアネイティヴ
マスクドレディ
エープリルマリーニューポリシー
スタイリッシュメイド
父系に関する注釈
ⓒ 2021 The Eternal Herod

競走成績が振るわなかったグリーンパンサーは、引退後はクラリオンという名の乗馬となった。そこで本書の著者である市来氏と出会い、乗馬クラブの客と乗用馬という立場で交流を深めていくが、やがてバブル崩壊の波が押し寄せ、クラリオンの廃用が決定する。廃用とはすなわち、食肉になるという意味である。

市来氏は、この悲報に動揺するも、高校教師という立場では何かできる手立てがあろうはずもなく、気持ちの整理を付けるために処分を待つクラリオンの元へ向かう。しかし、もはや単なる客と乗用馬と言って割り切ることができぬほどこの馬に強い絆を感じていた市来氏は、クラリオンを引き取る決意を固めるのである。

酪農家でも資産家でもなく、高校教師としてもキャリアの終盤に差し掛かっていた市来氏が、廃用寸前の元競走馬を引き取るなど無鉄砲もいいところである。しかし、市来氏が知恵を絞って粗末な馬小屋を手に入れ、自らの手で小さな牧場を作り、周囲の人々に助けられながらクラリオンの世話に奔走する姿には感動を覚えずにはいられない。やがて定年退職の日を迎えた後も、市来氏は気持ちを新たに愛馬クラリオン、愛犬シャープとともに生きることを決意する。

本書はヘロド系の名馬とは無縁の物語だが、サラブレッドの生涯に関心のある方ならば誰にでもお勧めできる。残念ながら古い本で手に入れるのは容易ではないと思うが、機会があればぜひ手に取っていただきたい。

私たちがいる限り、ヘロド系は終わらない。
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