ただ一世代に輝く金剛石:ダイヤモンドボーイ/Diamond Boy

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生涯

競走成績

長らくヘロド系最後の直系と認識されてきたトウルビヨン/Tourbillonの子孫は、曽孫のクレイロン/Klaironから分岐した二枝、すなわち1965年生まれの同期ロレンザッチオ/Lorenzaccioとリュティエ/Luthierが系譜を繋いできた。両者は、21世紀の現代までかろうじて子孫を残し続けてきたが、フランスおよびわが国で最後の輝きを放ったリュティエ直系は一足早くサラブレッドの血統の歴史から退場することになった。

ところが奇妙なことに、リュティエ直系のほぼ最後の子孫であるダイヤモンドボーイは、年間200頭以上もの牝馬を集める人気種牡馬として2021年の今日もアイルランド(愛国)のキルバリーロッジスタッドに君臨している [1]。これほどの有力馬が現存していながら、リュティエ直系が断絶したと見做されるのはなぜだろうか? それは、ダイヤモンドボーイが障害競走用の種牡馬であること、そして欧州では、障害レースに出走する牡馬たちは気性を大人しくする目的で去勢されてしまうことが最大の理由である。

英国最大の障害競走グランドナショナルを例に挙げよう。1919年~2019年の100年間に95度開催されたこのレースでは、牡馬が93勝、牝馬が2勝を挙げている。しかし、この牡馬たちは、1938年の勝ち馬バトルシップ/Battleshipなどごく僅かな例外を除き、ほぼ全頭が去勢されている。1970年代にグランドナショナルを3度制する金字塔を打ち立てた英国屈指の名馬レッドラム/Red Rumでさえ去勢馬である。この状況を見れば、障害競走用の種牡馬はサイアーラインを継承する資格がないと言っても過言ではあるまい。

ダイヤモンドボーイは、父マンソニアン/Mansonnien、母ゴールドオアシルバー/Gold Or Silverの間に2006年にフランスで生まれた。2008年9月に母国のフラン競馬場でデビューするが、しんがり負けをかろうじて免れる8着に敗れ、それから半年もターフを遠ざかっていた。ところがこの間、4歳年上の全兄ゴールデンシルバー/Golden Silverがアークルノービスチェイス(愛障害G1)に勝ったため、にわかに期待が高まり、兄とは異なり去勢されずに現役を続けることとなる [2]。

その後も凡走を繰り返していたダイヤモンドボーイだが、兄ゴールデンシルバーはヒリーウェイチェイス(愛障害G2)、ダイヤルAベットチェイス(愛障害G1)などを制して奮闘する。兄の活躍に勇気づけられたダイヤモンドボーイは、2009年の年の瀬、10戦目にして待望の初勝利を挙げた。3歳までの成績は11戦1勝という寂しいものだったが、4歳にしてようやく成長を見せ始め、3連勝を含む8戦4勝の成績でシーズンを終える。特に、4歳最後のレースとなったスカラムーシュ賞(仏リステッド競走)では、2ヵ月の休養が吉と出て、直線で好位から力強く抜け出すと、そのままライバルを抑えきって1馬身差で勝利を収めた [3]。

2011年の5歳シーズンは勝てなかったが、フランスのリステッド競走で2着、3着に入る好走を見せている。一方、兄ゴールデンシルバーは、2010年4月のパンチェスタウンチャンピオンチェイス(愛障害G1)でさらなる栄冠を手にすると、その後も障害G2競走を4勝するなど大いに活躍し、優れた能力を証明した。

種牡馬として

この兄の大活躍が認められ、ダイヤモンドボーイは2012年シーズンからフランスのドーヴィルで種牡馬生活を送ることになった。当初は「ゴールデンシルバーの全弟」といった程度のセールスポイントしかなかったが、2年目の産駒キャットタイガー/Cat Tigerが仏障害G3競走を2勝し、グランドサンシー/Grand Sancyもキングウェルハードル(英障害G2)を制するなど着実に実績を上げ始める [4,5]。また、2018年には愛国のキルバリーロッジスタッドに移籍し、235頭もの牝馬に種付けを行っている [4]。

ダイヤモンドボーイは、愛国に移籍して以来、最も忙しい種牡馬の一頭とも言われ、関係者の期待を遥かに上回る活躍を見せている点に注目して欲しい。この活躍が続けば、かつてダイヤモンドボーイ自身がそうであったように、障害競走馬として去勢することが惜しまれる息子も登場するかも知れない。何と言っても本馬は働き盛りの15歳で、年間200頭以上もの牝馬を集める人気種牡馬だ。ここから自分自身、あるいは全兄ゴールデンシルバー以上の大物が現れる可能性はゼロではあるまい。

ダイヤモンドボーイの活躍が、一度は滅びたとされるリュティエ系を再興し、ヘロド復活の狼煙となることを願おう。この夢のシナリオは、まんざら絵空事ではないのだから。

系譜(トウルビヨン-リュティエ系)

ダイヤモンドボーイ 2006年(仏)
22戦5勝 スカラムーシュ賞
マンソニアン
link
ティップモス
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アソシエーション
ゴールドオアシルバーグリントオブゴールド
ブルーストーン
父系に関する注釈
ⓒ 2021 The Eternal Herod

参考文献

[1] http://kilbarrylodgestud.ie/
[2] Golden arrow shooting for Arkle glory, Irish Examiner, January 25, 2009.
[3] Scaramouche: Diamond, un autre boy de tenue pour François Doumen, Paris-Turf.com, October 7, 2010.
[4] Diamond Boy sparkling with strong support at Kilbarry Lodge Stud, Racing Post, February 2, 2019.
[5] S. McGee, Sire review: Diamond Boy standing at Kilbarry Lodge Stud, The Irish Field, March 20, 2020.

私たちがいる限り、ヘロド系は終わらない。
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