<7>泡影:滅びゆくヘロドと最強馬リボーの遺児たち

先日来、ずっと追い続けてきた物語は、19世紀末の名馬セントサイモン/St. Simonがヘロド/Herodの子孫かという疑惑だった。その答えは未だ探究中だが、滅びゆくヘロドの家系にセントサイモンの勢力が加わったらどうなるのかと思いを巡らすことはたまらない楽しみである。

過去の記事に述べたように、セントサイモン系もまた滅びの一途を辿っており、現代に残された父系はプリンスローズ/Prince Rose(1928年)とリボー/Ribot(1952年)の系譜にほとんど集約されている。プリンスローズの系譜は別記をご覧いただくとして、本稿では最後の父系リボー系を扱いたい。

リボー系サイアーライン
リボー系サイアーライン

血統ファンはもちろん、史上最強の馬について熱く語りたい方ならば、20世紀の名馬リボーの名は絶対に外せない。この馬こそ、かの有名なイタリアの馬産家フェデリコ・テシオ氏の傑作にして、1955年と1956年の凱旋門賞を連覇し、16戦無敗のままに引退した最高の名馬である。

リボーは、種牡馬としてもその才能を遺憾なく発揮した。初年度産駒からいきなり凱旋門賞馬モルヴェド/Molvedo(1958年)を出したかと思えば、2年目の産駒ロムルス/Romulus(1959年)はムーラン・ド・ロンシャン賞(仏)やサセックスステークス(英)を制覇してマイル王となり、3年目の産駒ラグーザ/Ragusa(1960年)がセントレジャーステークス(英)を勝ってクラシックウィナーとなる。さらに、4年目の産駒プリンスロイヤル/Prince Royal(1961年)でまたも凱旋門賞を勝てば、5年目の産駒トムロルフ/Tom Rolfe(1962年)が米国クラシック第二戦のプリークネスステークスを制してみせるなど、初年度から途切れることなく活躍馬を輩出した。

このトムロルフは、リボーの重要な後継者の1頭となり、息子のホイストザフラッグ/Hoist the Flag(1968年)が麒麟児アレッジド/Alleged(1974年)を輩出した。アレッジドは、リボー系の父とプリンスローズ系の母より生まれたセントサイモン系の結晶ともいうべき存在であり、競走馬として10戦9勝2着1回、1977年と1978年の凱旋門賞(仏G1)を連覇する破格の活躍を見せた。種牡馬としても多数のクラシックホースを送り出して成功し、愛国ダービーの優勝馬/ローソサイエティLow Society(1982年)らが後継馬となった。しかし、ローソサイエティはドイチェランド賞(独G1)を勝ったアンジェロ/Anzillero(1987年)やパリ大賞典(仏G1)の優勝馬オムドロワ/Homme de Loi(1989年)などを輩出したものの、その次の世代が育たず、今やトムロルフの系譜ほぼ廃れている。

アレッジド 1974年(米)
10戦9勝 凱旋門賞(仏G1)連覇
ホイストザフラッグトムロルフ
ウェイビーネイビー
プリンセスパウトプリンスジョン
デターミンドレディ
父系に関する注釈
ⓒ 2021 The Eternal Herod

トムロルフより1歳下のグロースターク/Graustark(1963年)もリボー系を拡大した功労者である。グロースターク自身は故障がちで真価を発揮する前に引退したが、種牡馬としては、トムロルフや、もう一頭の優秀な後継者ヒズマジェスティ/His Majesty(1968年)に劣らぬ大活躍をした。グロースタークは初期の産駒から何頭もの重賞馬を出し続けるが、キートゥザミント/Key to the Mint(1969年)が最良の後継者となる。

一見、牝馬のような名前のキートゥザミントだが、現役時代は29戦14勝。米国クラシック戦線では未勝利ながらも、重賞6勝の実績が買われて1972年の米国3歳牡馬チャンピオンに選ばれている。種牡馬としても成功し、米G1レース4勝のジャワゴールド/Java Gold(1984年)や、ブリーダーズカップ・ディスタフほか多数の大レースを制した名牝ジュエルプリンセス/Jewel Princess(1992年)などの活躍馬を輩出した。しかし、こちらもまた孫世代以降に有力な後継者が出現せず、グロースタークが築いた系譜は急速に先細りしていった。

したがって、現代では、リボー系の未来はほぼヒズマジェスティの系統に託されている。ヒズマジェスティは、グロースタークと父母が同じ「全弟」であり、競走馬としても大いに期待されたが大成しなかった。しかし、種牡馬としては大変優秀で、当初から大物が続出した。

現代まで父系を繋げているコーモラント/Cormorant(1974年)は、ジャージーダービー(米G1)を含む重賞3勝馬だが、多数のG1馬を出して成功した。コーモラントの息子ゴーフォージン/Go for Gin(1991年)は1994年のケンタッキーダービー(米G1)の覇者だが、その息子Albert the Great(1997年)が種牡馬として奮闘。数少ないステークスウィナーからウッドメモリアルステークス(米G1)勝ち馬のノービズライクショービズ/Nobiz Like Shobiz(2004年)、ドンハンデキャップ(米G1)優勝のアルバータスマキシマス/Albertus Maximus(2004年)らが種牡馬入りし、もはや希少となったリボー系の担い手となった [1,2]。しかしながら、ノービズライクショービズは、アーリントンワシントンフューチュリティ(米G3)の勝ち馬ショーグッド/Shogood(2013年)ほか数頭の活躍馬を出すも有力な後継者を得られぬまま引退 [3]。アルバータスマキシマスに至ってはほぼ完全に失敗し、2020年には種牡馬を引退、繋養先のシャドウェルファームで余生を送っている。

すると、コーモラントの名のある末裔はムーンシャインマリン/Moonshine Mullin(2008年)を残すのみである。ムーンシャインマリンは、2010年のデビュー2戦目で初勝利を掴んだものの、3歳、4歳、5歳シーズンにそれぞれ1勝を挙げただけに留まり、5歳までの通算成績は26戦4勝という有様だった。それが、6歳になってようやく開花し、3連勝で臨んだアリシーバステークス(米G2)で初の重賞勝ちを収めた。この勝利は、前年の米国3歳牡馬チャンピオンのウィルテイクチャージ/Will Take Chargeらを退けて手にした堂々たる栄冠だった [4]。ムーンシャインマリンは、続くスティーブンフォスターハンデキャップ(米G1)で再びウィルテイクチャージらを破り [5]、前回の勝利がフロックではなかったことを証明した。その後もレースを続ける計画だったのだが、同馬は右前足の故障のためレースに復帰することなく2015年に引退した [6]。2021年現在、ムーンシャインマリンはアーカンソー州のレイクハミルトンイークァインセンターで種牡馬生活を送っている。現在の種付料はわずか1,000ドルであり、これまでのところこれといった活躍馬は出ていない。

とはいえ、セントサイモン系に少しでも希望を見出すのが当サイトの本懐であるから、現代の生き残りについてはできる限り追跡していきたい。ヒズマジェスティの最大の後継者といえば、米クラシック二冠馬プレザントコロニー/Pleasant Colony(1978年)である。この馬は、一昔前のゲーム「ダービースタリオン(ダビスタ)」で、レインボウクエスト/Rainbow Questらとともに海外の高額種牡馬として登場していたので、私も含めて親しみのある方も多いだろう(こんなことを書くと世代がバレそうだが)。

プレザントコロニー 1978年(米)
14戦6勝 米クラシック二冠
ヒズマジェスティリボー
フラワーボウル
サンコロニーサンライズフライト
コロニア
父系に関する注釈
ⓒ 2021 The Eternal Herod

実際、プレザントコロニーは種牡馬として優秀だったが、その中でもジョッキークラブゴールドカップなど米G1レースを2勝し、ブリーダーズカップ・スプリント(米G1)とブリーダーズカップ・クラシック(米G1)で2着に入ったプレザントタップ/Pleasant Tap(1987年)が大きな成功を収めた。種牡馬入り当初は振るわなかったプレザントタップだが、タップダンスシチー/Tap Dance City(1997年)がジャパンカップ(G1)を制したのを皮切りに多数の重賞馬が誕生した。これでこの系譜は安泰かと思われたが、どういうわけかプレザントタップには後継者がさっぱり出現せず、あっという間に壊滅状態に追い込まれていく。結局、この系統の行く末は、メトロポリタンハンデキャップ(米G1)優勝馬のサハラスカイ/Sahara Sky(2008年)次第という状況になっている。

プレザントタップの系統が苦しいのであれば、1歳年下のプレザントリーパーフェクト/Pleasantly Perfect(1988年)の系譜に託すしかない。この馬は、ブリーダーズカップ・クラシック(米G1)やドバイワールドカップ(首G1)など世界的に著名な大レースを制し、父プレザントコロニーの代表産駒にも数えられる名馬である。ところが、種牡馬としては数えるほどのステークスウィナーが出た程度で、有力な後継者も一向に出てくる気配がなかった。現在残された息子は、2012年のアファームドハンデキャップ(米G3、現アファームドステークス)を制し、2014年にカナダのコールブルックファームで種牡馬生活を始めたノニオス/Nonios(2009年)程度である [7]。ノニオスは、少ない種付け数ながらも健闘しており、2019年のカナダのリーディングサイアーランキングでは38位に付けていた。

こうして見渡すと、リボー系の運命もまた風前の灯火であり、生き残りの種牡馬もムーンシャインマリン、サハラスカイ、ノニオスとわずかばかりの名前が挙がるのみである。この系統には、ヘロド系の再興をなどといった夢を託すより前に、どうにか望みを繋げる名馬の誕生を期待するしかないのだろうか。

参考文献
[1] Grade I Winner Nobiz Like Shobiz Retired, BloodHorse, May 25, 2008.
[2] Albertus Maximus to Stand at Shadwell, BloodHorse, August 31, 2011.
[3] E. Shea, Nobiz Like Shobiz Settling in at Old Friends, BloodHorse, October 21, 2016.
[4] G. A. Hall, Will Take Charge doesn’t fire in Alysheba won by Moonshine Mullin, The Courier-Journal, May 2, 2014.
[5] J. Shinar, Borel gets Moonshine Mullin home in Foster, BloodHorse, June 14, 2014.
[6] J. Rees, Foster winner Moonshine Mullin retired, The Courier-Journal, May 7, 2015.
[7] Graded Winner Nonios Among Three to Colebrook, BloodHorse, October 24, 2013.

私たちがいる限り、ヘロド系は終わらない。
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